LACRIMOSA ASIA TOUR 初日 @ 渋谷・Club Asia P

 今世紀最大の奇跡、LACRIMOSAの来日公演に鼻息荒く行ってきましたよ。やばい。

 お友二人と渋谷で待ち合わせ、お馴染みのいかがわしいホテル街へ進入、そのど真ん中にある会場へ。入り口の前でおおーここかー、でも前売りのカウンターも出てなければポスターの一つも貼ってないですね、などと言っていると突然扉が開いて渋い白人男性が出現。こ、この人はLACRIMOSAの……えーと誰だっけ? ベース? ギター? ティロ様とアンヌ以外? その他大勢の一人? とまことに失敬な我々三人。でもCDにはクレジットの一つも出てないししょうがないですよね。SATYRICONだって普通はサティアとフロスト様しか知らねえし。しかし彼はそんな我々の戸惑いをよそに、「ああ来てくれたんだね」とばかりに優しげな微笑を浮かべて三人ともに握手してくれるのでした。言葉が通じなくてよかったね!

 名前も知らぬ彼との予期せぬ出会いに舞い上がる我々だったが、まだ時間あるし暑いのでと近所の喫茶店に移動。メタル話をしながらしばらく茶などしばいて時間を潰し、頃合いを見計らって再び会場へ。到着した頃にはちらほらとしかいなかった客は開場時間間際になってどんどん増え、短い坂の歩道を上から下までまるごと占拠するほどに。客層はプログレ方面のファンかいつものメタルのライヴより年齢高めの方がやや多く、またティロ様効果によるものか女性率も高め。ゴスっぽい人もちらほらいるが、やはりメタルTシャツの客がやや優勢か。
 そのうち扉の向こうからリハらしき音が聞こえてきた。最初はBGMとしてかけているのかと思ったが、どうやら生音。これは「Mandira Nabula」、それから、「Schakal」! 今そこでティロ様が歌っている! こんなことが本当にあるのか。これは現実なのか。必要もないのに俄に緊張してくる我々。

 15分ほど押して開場。私のチケットはキモいぐらいの良番だったのだが、色んなところから発券していたため同じ番号の人が何人かずついたらしく、お互い戸惑い合いながら整列して入場。
 で、まず目指すは物販。と思ったらCDを売ってるのはお馴染み目白ワールドディスクの店長。いつも通りの調子でヴァージョン違いの説明などしていて、思わず笑うと同時に大変和む。CDはまあ全部持ってるのでいいとして、Tシャツが新譜のジャケとお二人の写真の柄の(こっちは恥ずかしくてMEGADETHのと同じぐらい人前では絶対に着られない。バックプリントならまだわかるがなんで正面なんだよ)があったのでそれを両方買う。いくらキモくても使えなくてもいいんです、LACRIMOSAですから。

 買い物を終えて場内へ入ってみると、予想以上の狭さにびっくりする。近すぎる。ここはもう前に行く以外の選択肢はあり得ないと思い、皆で最前列へ。
 ステージの目の前に立ってみると近さに改めて驚く。柵もなんにもないし、これ最前列は握手会以前に握手状態なんじゃねえの。床に貼り付けてあるセットリストまで丸見え。興奮してついそこらにいた他のお客さんにも話しかけたりしてひとしきり盛り上がる。
 セットリストは事前に見たくなかったと思わないではなかったけれども目の前にある以上誘惑には勝てず、横目でちらりちらりと見てしまう。曲目に一喜一憂、というよりは「Lichtjahre」と新作をチェックしていればほぼフォローできる内容で、安心という感想が大きい。一通り確認して気が済んだ後はなるべく頭から追い出すようにして、気分を盛り上げながら開演を待つことに専念する。

 開始前BGMとしてなぜかメロスピなどが流れる中待つこと数十分、BGMも照明も落ちてなければまだローディがうろうろしている中、やけにあっさり唐突にお約束の「Lacrimosa Theme」が流れ始める。あれ、もう始まるの?と戸惑うがどう聞いても曲は「Lacrimosa Theme」。後を追ってやっと照明が落ち、メンバーが登場し出すに至って、やはり始まるのかと実感と共に震えが湧いてきた。十年以上待ち望んでとうとう実現したLACRIMOSAの来日ですよ。ドラム+弦楽器のおっさん四人に続いてアンヌが出てきた時には目から何か気持ち悪い汁がじわっと出てきた。何この変な汁? 私、知らないんだけど....
 演奏陣が全員揃い、ベースのイントロから新作の一曲目「Die Sehnsucht in Mir」がしずしずと始まった。目から出てくる変な汁を堪えながらティロ様を待つが、待ち焦がれたあのキモかっこいいお姿はなかなか現れない。長いイントロが終わりとうとう歌が始まったがそれでも出てこない。あれ? どこにいらっしゃるんですか? しばらくすると長いマイクスタンドを狭そうに引きずりながらも颯爽とティロ様がステージに現れたが、ここに至ると期待や感動より戸惑いと笑いの方が大きく、目から出る謎の液体はとうに引っ込んでいた。沸きに沸く会場。
 そこからは今まで待ちに待ったのが嘘のようにテンポ良く各曲が演奏され、全18曲ぎっしり詰まったセットリストは次々と消化。デュエット(ティロ様とアンヌが見つめ合いながら!)があまりに官能的なエロ歌謡「Alleine zu Zweit」、妖しく荘厳な「Schakal」、一際ポップな「Durch Nacht und Flut」、サビで「私を抱いて」と大合唱の「Halt Mich」、パンキッシュな「Copycat」(あんなに頭の振れる曲だとは思わなかった)、軽快でありつつどこか雄大な「Stolzes Herz」等々、定番曲・代表曲をどっさり詰め込んだ充実の内容で、曲の並べ方がまた上手いのもあって時間はあっという間に過ぎる。
 ついにこの目で間近に拝むことのできた生ティロ様だが、写真や映像よりも遙かに美しい。頭ちっちゃい。細い。そして独自のキモさとナルシスティックな高貴さを常に醸し出すティロ様独特の謎ダンス、生で観たそれは映像よりもずっと優美で格好良かった。昔「Music Clips」だか「Live History」だかのVHSで初めてその動きを目にした時には率直に言って入り込みすぎててキモいという印象を持ったが(それでも盲信者の私の目には格好良かったですけども)、今目の前にいるティロ様はあのキモさを残しつつもそれを遙かに凌いで格好良い。あれから年数も随分と経ち、世界各地でかなりの回数のライヴをこなしてきてパフォーマーとしての実力を上げてきたということだろうか。ロックバンドに相応しいアクティヴさを獲得しつつも、何かひと味違う貴族っぽさを滲ませるのが実にティロ様的な美しさで素晴らしい。それでも昔の曲ではあの指揮者めいた謎の動きが見られて、それもまた良かった。「Lichtgestalt」のサビでは目の前にしゃがんだティロ様が私と目を合わせてガンつけながら「Lichtgestaaaalt!!」と叫んでくれて、それが一番の思い出です。
 美しいということでは当然アンヌも負けていない。だいたいの曲ではキーボード・プレイヤーとしてサポート的な役割に徹している彼女だが、「A Prayer for your Heart」と「Not Every Pain Hurts」ではティロ様と立ち位置を交替して正面で歌い踊り、あまりにセクシーな腰の動きにより会場の全員を悩殺。「Copycat」ではティロ様と一緒になって歌い、最後には恒例の蹴り上げもしっかり見せてくれた。あんなに美しく踊れるのにほとんど動かないなんてもったいない。
 主役の二人をサポートする他の(名も知らぬ)メンバー達もものすごくいい仕事をしていた。目立つように動いたりなどということは一切しないのだが、その演奏だけでも存在感は十分。印象的なベースラインの多いLACRIMOSAの曲の中で着実にクリアな音を刻んでいくベースと、泣きも速弾きも振幅大きくほいほいこなすリード・ギターが特に凄かった。「Tranen der Sehnsucht」の後半に即興パート的な部分が設けられていたのだが、これが圧巻。ライヴ全体の中でもあれが最大の見所と言っていいぐらいでは。
 「Stolzes Herz」で一旦終了、アンコールでは名曲「Ich bin der Brennende Komet」(ギター二人の掛け合いが美味しすぎた)、さらに新曲からキャッチ−な「I Lost my Star in Krasnodar」(セットリストでは「Senses」となっていたのを差し替えか。驚いた)を挟んで泣きの極み「Ich verlasse heut' Dein Herz」。悲しみを一杯に湛えたティロ様の絶唱に続き、アルバムよりもさらにエモーショナルに爆発的な勢いで溢れるメロディの奔流。歌い終わって早々に退散したティロ様の代わりにステージ中央に向かい合って陣取ったギタリスト二人が、実に満足げな顔でハモりまくっていたのが良かった。
 ここで再びメンバーは退場、二度目のアンコールはティロ様のMCに続き、まさに揺らめく炎のようなメロディが印象的な「Feuer」。これで今日のライヴの演目は全て終了。

 事前に思ったとおり最前列はこの後予定されている握手会を待つまでもなくとっくに握手会状態で、全メンバーと何度も目が合い文字通り触れ合いもできる最高の場所だった。客層のせいか会場の狭さのせいか客が過剰に暴れるようなこともなくて至極快適だったし。新作の曲も、CDだとなんだか地味な印象を受けていたが、ライヴだと躍動感があってずっと良く聞こえた。というかもうそういうのじゃなくてね、12年憧れてきた最高に美しい人物が目の前の至近距離で最高のパフォーマンスを見せてくれる、なんて幸せなんでしょう。死んでもいいよね。
 それにしても今頃こんなタイミングで一体客は入るのか、採算は取れるのかとも事前に危ぶんでいたわけだけれども、実際には予想以上に良さそうな客入りでほっとしました。また来てくれるといいなあ。

 さて、至高のライヴが終わった後はおまけのお楽しみ、握手会。別に最後でいいからと余裕こいて、ドリンクなどもらったり物販を再び覗いたり(なんかさっきより品が増えていて、指輪だの台湾盤?のB面集めたCDだのピックだのが並んでいたので一通り買いました。散財散財)してから皆でゆっくり最後尾に並ぶ。ところが後の方になると、会場で次のイベントが控えてるから時間がないと急かされる。なんてこった。
 それでも片言の英語で緊張しながらもなんとかティロ様と話し(でも必死で喋ったのにティロ様、にこりともせずきょとんとしていた。なんてこった)、書きにくいとかなんとかこぼされながらもTシャツ(どうせ人前では着られない二人の写真のやつ)にサインをもらい、握手をしてもらい、写真も撮ってもらって会場を出てきました。目の汁はなんともなかったけどめちゃくちゃ緊張したぞ!
 その後皆でしばらく出待ちをしていたら、握手会が終わって会場を追い出されたのか早くも出てきたメンバー達。その場で再びプチ握手会のようなものが流れ的に行われていたので慌てて参加させていただこうとしたものの、早々にお二人はタクシーに乗り込んで消えてしまわれました。まあ明らかに通行の邪魔だったし、しょうがないよね。

 最後はせっかくだしということでその辺の居酒屋に適当に入って、飯食って帰ってきました。みんなありがとう。おかげで楽しかったです。
 さて、大阪も頑張ってくるぞ!

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