今日も出ました

 今日も出ましたよ奴が。学校の地下にある部屋、その扉を開け蛍光灯のスイッチを点けた瞬間床を横切る黒い影! ゴキブリ出現。
 実は一昨日も出たんですよこの部屋で。その時は室内で作業中、黒いものが床を這っているのが目に入ったのですぐに踏み潰そうとしたのだがさすがに夏場、奴は素早い動きで部屋の隅にある実験台の裏に隠れてしまった。「逃げ切れると思ってんちゃうぞこらぁ」などと脅しをかけながら実験台を蹴飛ばしたりしたのだが奴は出て来ず、仕方なく奴は放置して作業を再開した。するとしばらくして再び奴がのこのこと現れ私の方に寄ってきた。今度は何故か動きがのろいので容易に踏み潰せるかもと思ったが、足を上げた瞬間敵はまた敏捷な動きに戻って走り出し呆気なく空振り。奴はそのまま床に置いてあった物入れの下に隠れた。私はまた物入れを蹴飛ばして奴を燻り出しにかかったが、どうも隙を突いて死角から逃げられたようで敵を見失ってしまった。私は戦いに敗北したのである。完敗だ。
 というような屈辱的な事件があったので、今度は何としてでも仕留めたい。しかしこの地下には殺虫剤などはなく、学生室まで取りに行っていてはその間に逃げられてしまう。頼れるのは足だけという不利な条件だ。慎重に、かつ敏捷に対処しなくてはならない。
 しばし敵の動きを観察していると、奴は今のところ私の殺意を感知してはいないようでまだまだのんびり歩いている。油断している隙に、とそろりそろりと近づく。右足の射程距離内に入り、足を振り下ろそうとしたその時、奴は一昨日のように突如弾丸的スピードで走り出し物入れの下に隠れてしまった。今度は見失うまいと周りに慎重に目を配りながら物入れを動かす。すると物入れの向こう側の壁際を走る奴の姿が。すぐに走り寄り追い詰めることに成功。ここならば付近に物陰などはなく、奴は壁際を逃げ惑うことしかできない。こちらに動くスペースさえあればゴキブリより人間の方が動きは速いのだし、奴の動きを読み十分に先回りすることが可能だ。付け加えるならば奴は現在床にいるので飛ぶ心配はない。この勝負、もらった。
 壁際を全速で疾走する敵の行く手に足を振り下ろす。壁が邪魔な上奴も敏捷なので何度も避けられるが、やはり地の利のため逃げられることはない。足の届かない角に逃げ込まれた場合は床を踏み鳴らして追い出す。そうこうしているうちに、ついに爪先が奴の尾部を捉えた。動きが鈍った奴にさらに二度三度と追い打ちをかけ、内臓がはみ出し動けなくなるまで打撃を与える。もはや奴が復活することはない。完全勝利だ。武器らしい武器も持たず、夏場の最も敏捷な時期、絶好調の成虫ゴキブリを相手に一対一で勝利したという事実は非常に誇らしい。白いものをはみ出させた屍骸を後輩に見せびらかして嫌がらせをした上でゴミ箱に捨てた。
 ところで今日闘い屠った相手は立派な成虫だったのだが、一昨日取り逃がした敵は一回り小さい幼虫だったように思う。もしかすると同一個体で、昨日あたり絶妙なタイミングで部屋のどこかで脱皮し成虫になったのかもしれないが、単にこの部屋にうじゃうじゃ出るってことだったら嫌だなあ。などと考えると落ち着いて実験ができない。いつ何時奴が現れてジーパンの裾から進入して来ないとも限らないのだ。


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