うちの先生は素晴らしいと思います

 昼、研究室の皆でパスタ屋。食い終わった後引っ越しがどうしたという話になり、敷金が還ってくるかどうかとか清掃や補修の代金がどうとかいう話題から、先生の部屋は湿気がひどくて壁とかによく黴が生えるという展開になった。そこでおもむろに先生が「この間洗面所で見てはいけないものを見てしまったのですよ」と切り出した。柱からキノコが生てきたとかいう話ならよく聞くし、湿気とか黴とかが話題に上ってるからやっぱりそういう話かなと思いつつ拝聴する。「洗面台の辺りって、石鹸かすとかが溜まっててぬるぬるしてるじゃないですか」はあ。「そこらへんにハンドソープのポンプとかが置いてあって」ありますね。「普段はそんな持ち上げたりしないじゃないですか」そうですね。「で、ある日持ち上げてみたら」持ち上げてみたら?「底にやっぱりぬるぬるしたものが溜まってて」それでそれで?「その下にですね、何か黒い」何か黒い?「虫が」虫が!
 ということでもう断然私好みのネタに。虫もそこらの適当なゴキブリとかダンゴムシとかそんなのではなくて、「質感はプラナリアコウガイビルに少し似ていて」「しかしコウガイビルの頭のような構造はなく」「大きさも全長5ミリ程度と小さい」「表面はてらてらと光り」「節は無く」「端は細くすぼまっていて」「ちょうどひじきの欠片みたいな感じ」ということらしく非日常的な気色悪さが最高である。「しかも一匹じゃなくてね、何匹もいたんですよ」「うようよと」というような話を周りでパスタ食っている他の客たちがいる中で満面の笑みを浮かべて語る先生の姿に、ああこの研究室に来て良かったと心から思いましたよ。ええ。あるいはあれは私向けのサービスだったのかもしれないがどちらにしろ素晴らしい先生だと思います。惜しむらくは店のメニューにイカスミパスタがなかったことかな。その虫どもはその後どうなったかというと「そのまま洗面台に流れて行っていただきました」だそうな。
 しかしその虫たちの正体は何であろうか。コウガイビルや何かにしては小さいし、生まれて間もない個体なのだとしても奴らは肉食であり、話を聞く限りそんなところに繁殖できるほどの餌があるとも思えない。蝿や何かの幼虫というのも考えたが節はないということだったし、色が真っ黒というのも合わない気がする。線虫の類かもしれないとも思うが黒い線虫っているものかね? よくわかりません。