初の羽つき

 深夜、学生室の戸口の外側左上天井付近の壁に巨大な黒い紡錘形の影を発見。今年初の成虫クロゴキブリ(あるいはヤマトゴキブリ? 細かくは観察してないんでよくわからん)である。いつもの幼虫と違ってこいつはやばい。何がやばいかというと成虫には羽がついているのである。ゴキブリというものは飛翔した瞬間殺傷力が数倍に上昇する。こちらに向かって飛んで来られたりしたら普通の人はパニックに陥るし、その時足下にバナナの皮でも落ちていれば転倒して頭を強打し死に至る。精神的に弱い人ならば発狂しかねず、心臓の弱い老人などであればぽっくり逝くこと間違いない。そういうわけで今回の敵には特に慎重に対処せねばなるまい。
 隣の部屋からアースジェットを取ってくる。これまでのおぞましくも苦い経験(殺虫剤を噴霧した途端こちらに向かって飛びかかられ、手に乗られたり胴体を服の上からだが這い回られたりした)から、まずは遠距離射撃を行って様子を見ることにする。部屋から椅子を持ち出し、それに上ってゴキブリの後方から噴霧。敵は壁を走って逃げる。飛ぶ様子は今のところないのでさらに追撃。奴が逃走経路を天井に移したので、落下と同時に飛び立つ可能性を考え私は一旦扉の裏に退却、薄く開けた隙間から観察する。天井を這う敵の動きは次第に緩慢になり、やがて酔っ払ったかのように蛇行した進路を取り始め、ついには羽を広げて天井から落下した(やっぱり扉の裏に隠れておいてよかった)。殺虫剤が効いているようだ。確実にとどめを刺そうと再び部屋から出るが、その時には敵は別室の扉の下へと潜り込んでしまっていた。その部屋は鍵がかかっていて進入できず、追撃は断念し、一応隙間にアースジェットを思い切りぶっかけておいた。まあ殺虫剤は効いている様子だったし、明日の朝には冷たくなった屍骸が部屋の中で発見されるであろう。最期を看取ることができなかったのは残念だがまあ良し。


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