泣ける

  • 登場人物
    • 先生
    • 先輩A
    • 先輩B
    • その他先輩1名と後輩2名が一緒にいましたが話には特に関係しません。

 毎週木曜は昼飯を教官が奢ってくれる日であり、今日は皆でイタリア料理屋に行った。メニューを見ると、本日のランチには「野菜たっぷりトマトソース」「ボンゴレビアンコ(ジェノバ風)」「プチトマトと空豆のアンチョビクリームソース」などのスパゲティが載っており、ボンゴレビアンコの好きな私はボンゴレジェノベーゼなんてイカしてるじゃねえかと思い迷わずそれを注文した。
 料理が来るまで待っている間に先生がふと「もしかしてトマトソースってベーコンとか入ってないかなあ」とか言い出した。トマトソースが食べたくてよく考えずに注文してしまったそうなのだが、先生は肉が食えないのである。するとアンチョビクリームソースを頼んでいた先輩Aが、「もし入ってたら僕のと交換していいですよ。僕はトマトソースと迷ってクリームソースにしたので」と言うので、肉が入っていた場合にはそうするということになった。
 しかしサラダの後、少し間をおいて出てきたスパゲティは、間の悪いことに先輩Aの頼んだアンチョビクリームソース。「交換することになったら悪いので」と遠慮して手を付けずにいた偉い先輩Aだが、「冷める前に食べなよ」という先生の言葉に結局先に食べ始めてしまった。
 でそこへ少し遅れてやって来たのがボンゴレとトマトソース。トマトソース内の肉はどうかと観察してみるとしっかりベーコンの塊がごろんごろん。交換する予定だった先輩Aのクリームソースは既に手が付けられており、めでたく先生のと交換ということになったのは哀れな私のボンゴレビアンコ(ジェノバ風)。先生は一応「本当にいい?」と訊いてくれたし、私と同じボンゴレを頼んだ先輩Bも「私のと替えようか?」と言ってくれたのだが、自他共に認める非の打ち所のない紳士であるところの私がまさか我が儘を言うわけにはいかず、落胆を顔に出さないように必死こきながら笑顔で交換し食いたくもないトマトソースを食べた。ああこの何の変哲もないトマトソース。野菜たっぷりと言いながら大して入っていないトマトソース。私でも同じものどころかもっと美味いものが容易に作れそうなトマトソース。両隣の美味そうなボンゴレビアンコ(ジェノバ風)を恨めしく睨み付けながら焼け糞になって物凄い速さで平らげた。トマトにベーコンが入っていなければ、またはメニューにベーコンと一言書いてあれば、もしくは先生が注文する前にその可能性に思い至っていれば、あるいは先輩Aのクリームソースが先に来ていなければ、こんなことにはならなかったのに。先生が一個だけくれたあさりの美味さに情けなさはいや増し死にたくなる。


HOME PAGE : のこぎりパパ