鼻の奥から腐臭がする

 非常にベタだが少々病気自慢でもやってみる。私は蓄膿症持ちである。なんか鼻の奥にある頭蓋内部の穴の入り口が狭いだか何だかで膿が排出されにくい構造をしているらしく、風邪などをちょっと引いたりするとすぐにここに膿が溜まるようなのだ。大量に溜まってくるとその膿が穴を内側から圧迫し、鼻の横が痛くなってきたりする。でそのような病気を今現在発症しているわけである。発症に気づいたのは年末で、鼻の右横あたりに圧迫感を感じたかと思うと右の鼻から膿が出てくるようになった。いつも膿が溜まるのは主に右側のようで、それは今回も同じである。頭を左側に傾けると、右の鼻から普通の鼻水とは明らかに違う黄褐色のややべたべたした液体が流れ出してくる。ここで鼻をかむと、それはもう脳髄が溶け出したかと思うほど大量に出てくるので少し楽しい。初期の頃のこの膿はちょうど組織液ぐらいの感触で、ちょっと臭うがあまり大したことはない。
 で、その時点で兄(非常に疑わしいが一応医者だということになっている)に連絡を取り、病院で抗生物質を出してきてもらった。しかし馬鹿馬鹿しいことに、この薬を実家に忘れてきてしまったのである。改めて病院に行くのも面倒だし癪に障るので、仕方なく自然治癒に任せている。まだ治っていないのだが、幸い症状は今までのところ軽い。終始鼻が詰まり気味で口が渇き、たまに頭痛もするが、それほどひどくはなく生活や修論書きに支障はない程度だ。ただ厳しいのが膿の臭い。最初の頃は大したこともなかったが、これが時間が経つとほどよい温度でどんどん腐ってきやがるのか、激しい悪臭を放ち出す。常に奥の穴から喉の方に微量ずつ膿が流れているようで、磯臭いような臭いが四六時中咽喉内に立ちこめている。鼻をすすれば喉の奥の塩味と共に、腐りかけのウニを口いっぱいに頬張ったかのようなものすごい悪臭がして思わず噎せ返りそうになる。これをティッシュに吐き出してみると、色も初期の頃と比べて変わっており、黄褐色だったのがすこし緑がかった黄色い灰色になっている。また粘性も増してどろどろと糸を引いている。鼻から出した場合も同様。臭いを嗅ぐと、魚の死骸と共に港に打ち捨てられトビムシや蠅が一面にたかった投網を想起させるような凄まじい生臭さだ。足の親指の爪垢の臭いを嗅ぐように、わざわざ臭いを確認しては「くっせえ」と顔を顰めながらも少し嬉しかったりするが、やっぱりそれにも限度があって、自分から出た臭いを自分で嗅いでおきながら自分で胸が悪くなったりする。自覚はできないがもしかすると口臭もえらいことになっているのかもしれない。嫌だなあ。
 ところで蓄膿症の根本的な治療法というと、膿の溜まりやすい鼻の奥の構造を変えてしまう、つまり手術ということになるらしいのだが、調べてみるとこれがまた怖い。入り口の粘膜をごっそり切り取るだとか、それでも後からまた粘膜が成長してきてしまったりするとまた手術が必要で今度は骨を削るとか、あと手術後には止血のために鼻の奥に詰め込んでいたガーゼを無理やり毟り取るという作業が待っており、これが組織と癒着していたりするのでむちゃくちゃ痛く、その後しばらく血が止まらないとか、考えるだけで背筋が嫌な感じになる。恐ろしい。