侵入者

 帰省終了、東京に戻り夜早速学校へ行く偉い私。まだ正月で誰もいないのだが、部屋に入ると不審者がいるのを発見した。まあいわゆるゴキブリである。先輩(女性)の机の上であるので、自他ともに認める非の打ち所のない紳士であるところの私としてはこの不法侵入者に対して見て見ぬ振りをするか、それとも容赦なく叩き潰すかどちらがより紳士的な態度であろうかとしばし迷った。結論、悪には断固として立ち向かうのが真に紳士たる者の務めであると死刑執行を決意。だいたい私これからここで作業するわけだからこんな奴がのさばっていては気分が悪いし。
 でその辺にあった本を適当に取り、右手に持ってそろりそろりと近寄り一気に標的に叩き付ける。本の角がマウスの脇にいた敵のケツのあたりに命中。奴はよたよたと逃げにかかるが気温が低いせいかケツのダメージのせいか動きは鈍い。そのままノートパソコンの裏に隠れた。尻から透明な糸が長く三本ほど引いているのが実に気味が悪い。パソコンを叩いたり揺らしたりしてみるが奴は出て来ず知らぬ間に逃げやがったかと焦る。しかし思い切ってパソコンをひっくり返してやると奴はまだいて、鈍重な動きで机の端に立ててあった絵葉書のところまで行って停止した。そこへ本の背で容赦なく一撃を加える。敵は粉砕。死体を処理しマウスパッドや机を拭く。ゴミ箱に死体を捨てるとき後ろ脚が一本ないのでおかしいなと思い殺害現場を調べると、とどめを刺した時の衝撃で脚がもげて飛んだようで絵葉書に脚が張りついていた。脚の付け根のところの白いぐちゃぐちゃしたものが何とも不愉快だ。ティッシュで拭き取るが、ちょっと絵葉書に染みが付いてしまった。知らなければ気付かない程度だしまあいいか。
 というようなところなのだが、この件を先輩本人に伝えるべきかどうか悩んでいる。先輩がショックで机に近寄れなくなったりしたら申し訳ないし、かといって勝手に机を汚しておいて(とは言っても汲み取り便所のなくなった今時のゴキブリはそれほど不潔でもないらしいのだが)何も言わないというのも良くない気がする。一体どちらが紳士としてより正しい行動なのであろうか。読者諸氏のご意見を待ちたい。


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