陰陽座 @ 後楽園・JCBホール

 陰陽座の九尾の狐ツアー最終日に行ってきましたよ。

 彼らのライヴは三度目なので特に言うこともなく。いつも通りかっこよくて和やかですこぶる楽しいライヴでしたことよ。個人的にはたぶん四年ぶりぐらいだけど、みんな随分上手くなっててびっくりしたなあ。会場のせいか音が若干籠もってたけど、それをものともしない黒猫様の歌唱力。ツアーを重ねるごとにどんどん艶を増してる気がするし。超惚れる。
 やや残念だったのは、瞬火兄貴の話がいつものようにぐだぐだ長すぎて他のメンバーが遠慮してるせいかMCの時間がほぼ兄貴独演会と化していたこと。いやまあ面白いから全然構わないんですけどね。でも前は黒猫様はじめ他のメンバーもそこそこ喋ってたように思うので少し寂しい。が、実は今日の兄貴はああ見えていつもより控えめだったらしい。あれで控えめだったらいつもはどうなってるんだ。おお……おお……恐ろしい。しかしぐだぐだの気配が生じる度に会場が沸くのがすごい。もうすっかりぐだぐだ芸として成立しているではないか。
 二回目のアンコールで気持ちよく「悪路王」やって、最後のMCで兄上が「あと僕がこの頓馬な話を2、3分やって終わりですから。もう帰りたい人は帰ってくださって結構です」とかいったような事を言って、その後客電がついて「本日の公演は……」ってなったもんだから、もうないと思って外に出てしまいました。でもしばらくしてもほとんど他の人が出てこないのでおっかしいなーと思って覗いてみたらまた出てきてやってやんの、三回目のアンコール。そりゃねえよ兄貴、とは思ったけども、やっぱりさすがです陰陽座。会場の都合なんて歯牙にもかけないサービス精神!
 全体通して嬉しかった曲は「夢幻」〜「邪魅の抱擁」、「黒衣の天女」、「羅刹」あたり。残念なのは新譜からの曲がやっぱりどうにも地味だったこと。なんか知らないけど聞き流しモードになってしまうんですよね。前作が良すぎたのもある。ただ「貘」と「九尾」の一曲目、あと「喰らいあう」はさすがに良かった。サビの「Cry out!」が未だに頭の中ぐるぐるしています。

 三時間半立ちっぱなしでふらふらの足腰を引きずりながら会場を出、ラーメン食って解散。空腹のせいもあって異様に美味しく、最近には珍しくも汁まで全部飲んでしまいました。
 さて次はOPETH、それからまた陰陽座の今度は十周年記念公演ですよ。


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ANVIL映画

 お友が今度公開されるANVILのドキュメンタリー映画の試写会を当てたというのでご一緒させていただいてきました。不覚にも猛烈に感銘を受けてしまい、しょうがないのでものすごく真面目に痛い感想を書いてみようと思います。ネタバレ注意ですが、でもまあネタバレも糞もないような映画だと思うのであんまり問題ないんじゃないでしょうか。

 はるか昔に一瞬だけ脚光を浴びかけたバンドのおっさんら二人が、その後すっかり鳴かず飛ばずの貧乏生活に二十ウン年も耐え忍びながら、再びシーンに返り咲きロックスターとしての名声を手にするという夢だけを生きる支えにして、50代になった今も地道に活動する、その様子を追ったドキュメンタリーです。ツアーをやっても客はほとんど入らずギャラは出ず、アルバムは親族に借金して制作。本業であるはずの音楽活動は儲かるどころか真っ赤っか、普段はしがない仕事で糊口を凌ぎ、時々休みを取って金を使ってツアーに出るという有様です。
 そんな腰砕けの毎日は、彼ら本人の濃くも愉快なキャラもあって笑いどころは異様に多い。マネージャーがアホで何度も列車を逃したりとか、一応ちゃんと演奏したのにギャラが出なくて晩飯だけ出てきたりとか。
 というふうなあらすじだけ説明すれば、ただ能天気でアホなおっさんらがうだつの上がらないバンド活動を未練たらしくいつまでもやってる情けなくも笑える映画という感じにもなってしまいますし、事実その通りでもあるのですが、実際観てみて私が抱いた感情は、とてもそんなものでは説明のつかない、複雑で激しいものでした。所謂単なる感動というのではなく、これだけ整理不能のよくわからない感情に心を満たされるというのは初めての経験です。

 細かく見れば、その感情ひとつひとつの要素は様々に分解して説明することもできます。これと思い込んだことを何十年も続けることの偉大さと愚かしさ。彼らの夢に振り回されながらも応援し続け、売れる見込みもほぼないようなアルバムの制作に大金を投資してくれる家族の暖かさ。活動を続ける中で見出す僅かな希望と、それがことごとく裏切られていく落胆と悲しみ。たとえまったく売れなくても、レコード会社に相手にされなくても、続けることにこそ意味があるという開き直りの心強さ。また逆に、一度はあれだけ注目され、多くの同業者に絶賛される才能とチャンスがあっても、こうして落ちぶれてしまうのだという恐怖。挫折を常に味わいながらもポジティブであり続ける、想像を絶する強さとバカさ加減。そして、35年という年月に裏打ちされた、あまりにも強固な友情と絆。
 強引ながらまとめれば、幸せに笑って生きるということへの真摯さを、これ以上なく強く持っている彼らの態度に感じ入ってしまったということでしょうか。2006年のラウドパークへの出演が決まり、日本の大観衆の前で演奏することになるという最後の展開は知ってましたし、それがどれぐらいの盛り上がりだったかというのも、現地にいたのでよく覚えています。それでもなお(だからこそでしょうか)、彼らがそのステージへ向かう一連の流れでは、胸に込み上げてくる感情と涙は、必死にならなければ抑えることのできないほどのものでした。彼らがどんな思いで日本のフェスへの出演オファーを受けたか。どれだけの不安を抱いて、ステージまでの道程を歩いたのか。彼らのまさに一生がかかった、あれだけの重みのある感情が、あの馬鹿馬鹿しいステージに秘められていようとは、想像もしませんでした。

 正直言って今となっては、彼らの音楽に大して注目に値するようなものがあるとは、個人的には思いません。彼ら自身にしても、本当に愉快な人達だし、その姿勢には学ぶべきところも多々あるし、35年の経験から出てきた台詞はまったく名言揃いだと思いますが、だからと言ってその生き様を見習いたいとは決して思いませんし、憧れもしません。本当にアホなおっさんらです。でも彼らは最高に輝いていたし、心底格好良かった。

 今回の試写会は、ラウドパークでの公演からたった二日後。なおかつここは映画館でもないライヴハウス。となれば、映画の本編が終わった後にちょっとしたライヴか何かあるんじゃないかということは容易に想像がつきます。スタッフロールが終わってスクリーンが上がると、案の定そこには演奏機材が据えられていて、たった今映画に出ていたメンバー達本人による生の「Metal On Metal」が始まりました。メロイックサインを掲げながら前方へ殺到する観客達。私もどれだけ歓声を上げ、ANVILの名を呼びたかったことか。でもこんな見え見えの展開にさえ、溢れる感情に胸が一杯で喉が詰まり、全力で拍手を送るのが精一杯なのでした。

 勇気をもらったとか、感動したとか、それは間違いないけれども、そんな程度ではない。そんな陳腐な言葉では到底表しきれない何かが、この映画には、ANVILというバンドの生き様には、みっちりと詰まっていると思います。私は会場で我慢した分、家に帰ってから思うさま泣き崩れました。


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SLAYER @ 新木場・STUDIO COAST

 恒例のラウパを今年はすっ飛ばして帝王SLAYERの単独公演に行ってきましたよ。しかしながら帝王のパフォーマンスに関して今更私ごときが語るべき言葉など何ら残っていようはずがありません。帝王は死ぬまで帝王、死んでも帝王、人類の最後の一人が滅ぶその時まで帝王であり続けるに違いなく、SLAYER is SLAYER、この言葉が全てです。最高としか言いようがないし、帝王が最高でないなどということは今までもこれからもあり得ず、とにかく観れば全てが分かる。何か言えることがあるとしたら、せいぜいトムさんの喉の調子良かったねっていうぐらいでしょうか。

 三年前のラウドパークで圧死しそうになったので、今回は後ろからゆっくり観てればいっかーと思って眼鏡を用意して行ったんですが、ケースを開けてみたら中から眼鏡拭きだけが一枚はらりと舞い落ちて来て自分のバカさ加減に愕然としました。こうなったらしょうがないのでモッシュピットにでも入って全力で楽しみ尽くしてやる、と腹を括り、結局その通りに前方で走り回って来ました。とりあえず2曲目だったかの「War Ensemble」で体力無視してぐるぐる走って重量級キャラに投げ技食らったかのごとく体力ゲージをぐいーんと4割方減らし、あとは頭振って手も振り上げてサビを歌いつつ折りを見てモッシュに参加、脇腹痛くなってもうだめと思ったら離脱して体力回復という流れを繰り返して最後まで。ステージなんてろくに見ちゃいねえ。帝王のかっこいい生演奏をバックに押し合いへし合い大運動会、ファン同士親睦を深めましょうといった具合です。終わった時にはもうへとへと。ビールを飲む体力すら残っておらず、ひたすらポカリがうまい。Tシャツくさい。でも気分は絶好調。ああ楽しかった。


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LACRIMOSA ASIA TOUR 二日目 @ 梅田・ am Hall

 奇跡はまだまだ続いてまして、LACRIMOSA二日目、今度大阪です。ティロ様のためなら地の果てまでも(ただし諸々の事情によりせいぜい日本国内限定)、とばかりストーキングしてきました。

 前日のセットリストをiPodにブチブチ込み、延々聞きながら新幹線で大阪へ。梅田のこちゃこちゃした町並みの中を若干迷いつつも、開場一時間前頃無事にホテルに到着。と、そこで何か見覚えのある人を発見。おや? あれは下手側のギタリストさん(昨日開場前に握手してくれた紳士)ではないかしら。……と思いつつも日本人の悲しさ、似た別の外人さんと区別が付いていないだけかもしれず、また開場時間も迫っているこんな時間にメンバーが未だホテルにいるはずもなく、というわけで、チキンの私は声をかけて確かめることもできずじまい。チェックインして昨日買ったTシャツに着がえ、サインしてもらうためのCDを持ち、ホテルの近くにあったLOFTでサイン用のペンを買い、これで準備は万端、会場へ。

 パチンコ屋の上にある会場には開場10分前ぐらいに到着。と思ったら、なにやら準備に時間がかかっているとかで開場が45分遅れると知らされた。ちょっとその辺に出てたこ焼きか何か食ってきてもよかったのだが、開場に先立って物販がセッティングされ始めたりしていたのでそちらが気になって(昨日一通り買ったつもりではあるが、もし新しいブツでも出てたら買わなくては)やっぱりその場にいることにする。で、ついついその場にいたお客さん相手に昨日の中島店長ばりにCDの解説をしたりとかしてしまう。思ってた以上にLACRIMOSAに詳しいな俺。マニヤですね。キモイですね。
 勝手に出しゃばってるのもキモイのでそういうのはそこそこにし、その辺の壁際に後退して適当に待っていると、徐々にスタッフが辺りをうろつき始めた。と、その中に見覚えのある姿が。あれはさっきホテルで見たギタリストさん(推定)と一緒にいた外人さん! やっぱり例の彼は彼で、そうするとバンドは私と同じホテルに泊まってるんだろうか。どどどどどうしよう。嬉しいというよりも降って湧いた偶然にどうしていいかわからず、無駄に緊張してきてさる高貴な御方ほか数名のお友にメールなどして心を落ち着けようとする。すると「何も特別なことはないし常識的に追っかけすればいい」との回答が。うむ、なるほど。落ち着いた。たまたまホテルで会えたらラッキーぐらいの心持ちで行きます。
 そんなことをしてるうち、中でリハーサルが始まった。開演前に「Schakal」をフルで聴けて大変得した気分です。
 あと、昨日買ったエコバッグを提げていたのが目に止まったらしく、日本人スタッフの方に「東京から来られました?」とか聞かれる。「ありがとうございます」と言ってもらったけど、その台詞はそっくりそのまま全力で投げ返させていただきたい! 呼んでくれてこちらはもう感無量、夢を叶えてもらっていくら感謝しても足りません。

 きっちり45分遅れで開場。昨日と比べるとびっくりするぐらい広い。ステージ広いし、天井高いし、柵もある。事前の腹積もりでは「東京は前、大阪は後ろで」などと小賢しいことを考えていた私だが、この広さを見てついテンションが上がり、結局一番前のアンヌ付近に猛然と突撃してしまう。
 ステージを改めてじっくり見てみると、ちゃんとでっかいピエロのマークのバックドロップはかかってるし(昨日はプロジェクターでスクリーンに写真が映っているだけだった)、ドラムセットのところには大きな旗だって二本立っている。おお、なんかちゃんとしたステージになってる、と嬉しくなった。嬉しさのあまりまたしても他のお客さんの会話に口を出すなどというチキンの私としては暴挙に等しい行動に出、話し込んで仲良くなる。

 19時15分頃照明が落ち、「Lacrimosa Theme」と共に開演。曲目は昨日とほぼ同内容だが、時間が押していたせいか1曲目の「Die Sehnsucht in Mir」だけカットされ、「Alleine zu Zweit」からとなっていた。曲は違えど最初ティロ様出てこない演出は同じ。
 昨日よりも会場がだいぶ広いのと逆に観客は少なく、さすがに昨日ほど盛り上がりは良くなかったが、さすがベテランの一流バンドと言うべきか、昨日と遜色ないどころかより格好良いパフォーマンスを見せてくれた。音も昨日より良かったし(昨日は機材トラブルもあったし)、照明も効果的に使われていた。ギタリストの二人は窮屈さから解放されたか多少よく動いており、「Stolzes Herz」では前で並んで弾く二人の背後からティロ様が長大な旗を振るというまことに涎ものの光景が見られた。広い場所を存分に活かした華のあるステージで、これがLACRIMOSAのライヴの真価かと深く感動した次第。テイストの違うライヴを二回見ることができて、やはり大阪まで遠征してきてよかった。

 終演後はスタッフが片付けに来るまで前で粘り、昨日は逃したセットリストを入手。ちゃんと「Die Sehnsucht in Mir」が消してあるし、「Senses」は「Krasnodar」と書き換えてある。いかにも今日の記念っぽくて嬉しい。ただ後で他の人のもらったやつを見せてもらったら、ギターのコードとかがたくさんメモってあるのもあったみたいで、たいへん羨ましかった。
 握手会では持参した「Sehnsucht」限定盤のブックレットと、そのセットリストにサインしてもらった。「また日本に来てね!」と言ったら「I try to」という微妙な返答でしたけれど、「二日とも見たんです!」と言ったら褒めてくれたし笑ってくれたのでよかった。昨日の無愛想はなんだったんだ。疲れてたのかしら。

 その後、さっき仲良くなったお客さん(三人組)が「良かったら飯でも」と誘ってくれたのでほいほいついて行く。その名も「MIDIAN」というメタルバーがあるというので期待して行ったら果たしてその期待通りで、暗い店内にCRADLE OF FILTHのファブリックポスターが飾られ、ピーター・ベストの「NORWEGIAN BLACK METAL」の写真集があり、奥のスクリーンではSEPULTURAが放映されているという実にもって落ち着くことこの上ない店だった。我々がLACRIMOSAのライヴ帰りだと知って「Live History」のDVDなんてかけてくれる(よく持ってたな)。メニューも明らかにメタルが意識されていて「サタン」だの「ギロチン」だのという銘柄のビールが置いてあるし(普通に美味しかったです)、焼酎は「鬼火」や「魔界への誘い」といった具合。そんな環境でピザなどぱくつきながら酒を飲みメタル話に興じる我々。「こんなところで落ち着くなんてお互い変態ですね」「メタルを聴いてメタル話をしながら飲む酒は最高にうまいですねえ」「もう数年来の友人のようだ。話していてまるで違和感がない」などとすっかり意気投合。そのうち終電が近くなったので、連絡先を教えてもらい、再会を約して別れました。いやあ、楽しかった。いい店教えてくれてありがとうございました。

 そしてホテルに帰るとこれまた偶然。入り口の階段のところで見覚えのある後ろ姿が。さっき開演前に声をかけてくれたスタッフの方が煙草を吸っていらっしゃる。向こうも顔を覚えていてくれていて、しばらく話し込む。やはりメンバーもスタッフも全員ここに泊まっているらしく(なんたる偶然か!)、明日は朝10時にロビーに集合して出発する予定なんだそう。「その時間にいれば会えますよ」と言ってもらえ、これは待ち伏せするしかない。その他にも、いろいろ裏事情が聞けてたいへん興味深かった。

 さて翌朝。9時半にロビーへ降りて行ったら、昨日も会ったギタリストの紳士が一人でパソコンなどいじっていらっしゃる。「ヘロー」などと言って話しかけ、エコバッグにサインをいただいた。今のところ下にいるのは彼一人だけのようなのでしばらく待っていると、今度は日本人スタッフらしき方が来て、さっきの彼に話しかけたりしている。そこでちょっとその方にも話しかけてみたところ、またいろいろと裏話が聞けて面白かった。
 結局皆が降りて来だしたのは11時前ぐらいになってからで、早く降りて来いよとやきもきするスタッフの方を尻目に私はメンバーを一人ずつ直撃、順番にエコバッグにサインをいただいた。ティロ様とは横に座って「東京も大阪も観ました!」「どこに住んでんの? 東京? 大阪?」「東京です」「今日このためだけに来たの?」「ええもちろん」「クール!」などといった会話を交わし、一緒に写真を撮ってもらい(アンヌがシャッター押してくれた!)、「アンヌとも撮るかい?」と今度はティロ様がシャッターを押してくれ、もういつ昇天してもおかしくない幸せ。私服でもお二人は当たり前のように美しく、ティロ様はなんかお香みたいなエロくていい香りがしました。
 見送ろうと車が出るのを待っている時には、バンドメンバーとだべっていた上手側のギタリストの方がわざわざ抜け出して隣に座りに来てくれ、「なんていい人なんだ」と感激した。野球の話できなくてごめんなさい。一方、スタッフの方も余ったポスターをくれたりピックをくれたり気を遣ってくれ、メンバーもスタッフも本当に親切にしてくれて申し訳ないぐらいでした。
 最後、出発の時には車に乗り込んだティロ様とアンヌがわざわざこちらを向いて手を振り大きな声で「Bye!」と言ってくれて、もうね、感激としか言いようがないです。こんな風に二人と話ができるなんて、文字通り夢に見た光景ではないですか。

 そして胸一杯に幸せを抱え込んだ私は、阪急地下のインデアンカレーで昼飯を食って大阪を後にしたのでしたとさ。最初間違って姫路方向の電車に乗ってしまったのは内緒です。


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LACRIMOSA ASIA TOUR 初日 @ 渋谷・Club Asia P

 今世紀最大の奇跡、LACRIMOSAの来日公演に鼻息荒く行ってきましたよ。やばい。

 お友二人と渋谷で待ち合わせ、お馴染みのいかがわしいホテル街へ進入、そのど真ん中にある会場へ。入り口の前でおおーここかー、でも前売りのカウンターも出てなければポスターの一つも貼ってないですね、などと言っていると突然扉が開いて渋い白人男性が出現。こ、この人はLACRIMOSAの……えーと誰だっけ? ベース? ギター? ティロ様とアンヌ以外? その他大勢の一人? とまことに失敬な我々三人。でもCDにはクレジットの一つも出てないししょうがないですよね。SATYRICONだって普通はサティアとフロスト様しか知らねえし。しかし彼はそんな我々の戸惑いをよそに、「ああ来てくれたんだね」とばかりに優しげな微笑を浮かべて三人ともに握手してくれるのでした。言葉が通じなくてよかったね!

 名前も知らぬ彼との予期せぬ出会いに舞い上がる我々だったが、まだ時間あるし暑いのでと近所の喫茶店に移動。メタル話をしながらしばらく茶などしばいて時間を潰し、頃合いを見計らって再び会場へ。到着した頃にはちらほらとしかいなかった客は開場時間間際になってどんどん増え、短い坂の歩道を上から下までまるごと占拠するほどに。客層はプログレ方面のファンかいつものメタルのライヴより年齢高めの方がやや多く、またティロ様効果によるものか女性率も高め。ゴスっぽい人もちらほらいるが、やはりメタルTシャツの客がやや優勢か。
 そのうち扉の向こうからリハらしき音が聞こえてきた。最初はBGMとしてかけているのかと思ったが、どうやら生音。これは「Mandira Nabula」、それから、「Schakal」! 今そこでティロ様が歌っている! こんなことが本当にあるのか。これは現実なのか。必要もないのに俄に緊張してくる我々。

 15分ほど押して開場。私のチケットはキモいぐらいの良番だったのだが、色んなところから発券していたため同じ番号の人が何人かずついたらしく、お互い戸惑い合いながら整列して入場。
 で、まず目指すは物販。と思ったらCDを売ってるのはお馴染み目白ワールドディスクの店長。いつも通りの調子でヴァージョン違いの説明などしていて、思わず笑うと同時に大変和む。CDはまあ全部持ってるのでいいとして、Tシャツが新譜のジャケとお二人の写真の柄の(こっちは恥ずかしくてMEGADETHのと同じぐらい人前では絶対に着られない。バックプリントならまだわかるがなんで正面なんだよ)があったのでそれを両方買う。いくらキモくても使えなくてもいいんです、LACRIMOSAですから。

 買い物を終えて場内へ入ってみると、予想以上の狭さにびっくりする。近すぎる。ここはもう前に行く以外の選択肢はあり得ないと思い、皆で最前列へ。
 ステージの目の前に立ってみると近さに改めて驚く。柵もなんにもないし、これ最前列は握手会以前に握手状態なんじゃねえの。床に貼り付けてあるセットリストまで丸見え。興奮してついそこらにいた他のお客さんにも話しかけたりしてひとしきり盛り上がる。
 セットリストは事前に見たくなかったと思わないではなかったけれども目の前にある以上誘惑には勝てず、横目でちらりちらりと見てしまう。曲目に一喜一憂、というよりは「Lichtjahre」と新作をチェックしていればほぼフォローできる内容で、安心という感想が大きい。一通り確認して気が済んだ後はなるべく頭から追い出すようにして、気分を盛り上げながら開演を待つことに専念する。

 開始前BGMとしてなぜかメロスピなどが流れる中待つこと数十分、BGMも照明も落ちてなければまだローディがうろうろしている中、やけにあっさり唐突にお約束の「Lacrimosa Theme」が流れ始める。あれ、もう始まるの?と戸惑うがどう聞いても曲は「Lacrimosa Theme」。後を追ってやっと照明が落ち、メンバーが登場し出すに至って、やはり始まるのかと実感と共に震えが湧いてきた。十年以上待ち望んでとうとう実現したLACRIMOSAの来日ですよ。ドラム+弦楽器のおっさん四人に続いてアンヌが出てきた時には目から何か気持ち悪い汁がじわっと出てきた。何この変な汁? 私、知らないんだけど....
 演奏陣が全員揃い、ベースのイントロから新作の一曲目「Die Sehnsucht in Mir」がしずしずと始まった。目から出てくる変な汁を堪えながらティロ様を待つが、待ち焦がれたあのキモかっこいいお姿はなかなか現れない。長いイントロが終わりとうとう歌が始まったがそれでも出てこない。あれ? どこにいらっしゃるんですか? しばらくすると長いマイクスタンドを狭そうに引きずりながらも颯爽とティロ様がステージに現れたが、ここに至ると期待や感動より戸惑いと笑いの方が大きく、目から出る謎の液体はとうに引っ込んでいた。沸きに沸く会場。
 そこからは今まで待ちに待ったのが嘘のようにテンポ良く各曲が演奏され、全18曲ぎっしり詰まったセットリストは次々と消化。デュエット(ティロ様とアンヌが見つめ合いながら!)があまりに官能的なエロ歌謡「Alleine zu Zweit」、妖しく荘厳な「Schakal」、一際ポップな「Durch Nacht und Flut」、サビで「私を抱いて」と大合唱の「Halt Mich」、パンキッシュな「Copycat」(あんなに頭の振れる曲だとは思わなかった)、軽快でありつつどこか雄大な「Stolzes Herz」等々、定番曲・代表曲をどっさり詰め込んだ充実の内容で、曲の並べ方がまた上手いのもあって時間はあっという間に過ぎる。
 ついにこの目で間近に拝むことのできた生ティロ様だが、写真や映像よりも遙かに美しい。頭ちっちゃい。細い。そして独自のキモさとナルシスティックな高貴さを常に醸し出すティロ様独特の謎ダンス、生で観たそれは映像よりもずっと優美で格好良かった。昔「Music Clips」だか「Live History」だかのVHSで初めてその動きを目にした時には率直に言って入り込みすぎててキモいという印象を持ったが(それでも盲信者の私の目には格好良かったですけども)、今目の前にいるティロ様はあのキモさを残しつつもそれを遙かに凌いで格好良い。あれから年数も随分と経ち、世界各地でかなりの回数のライヴをこなしてきてパフォーマーとしての実力を上げてきたということだろうか。ロックバンドに相応しいアクティヴさを獲得しつつも、何かひと味違う貴族っぽさを滲ませるのが実にティロ様的な美しさで素晴らしい。それでも昔の曲ではあの指揮者めいた謎の動きが見られて、それもまた良かった。「Lichtgestalt」のサビでは目の前にしゃがんだティロ様が私と目を合わせてガンつけながら「Lichtgestaaaalt!!」と叫んでくれて、それが一番の思い出です。
 美しいということでは当然アンヌも負けていない。だいたいの曲ではキーボード・プレイヤーとしてサポート的な役割に徹している彼女だが、「A Prayer for your Heart」と「Not Every Pain Hurts」ではティロ様と立ち位置を交替して正面で歌い踊り、あまりにセクシーな腰の動きにより会場の全員を悩殺。「Copycat」ではティロ様と一緒になって歌い、最後には恒例の蹴り上げもしっかり見せてくれた。あんなに美しく踊れるのにほとんど動かないなんてもったいない。
 主役の二人をサポートする他の(名も知らぬ)メンバー達もものすごくいい仕事をしていた。目立つように動いたりなどということは一切しないのだが、その演奏だけでも存在感は十分。印象的なベースラインの多いLACRIMOSAの曲の中で着実にクリアな音を刻んでいくベースと、泣きも速弾きも振幅大きくほいほいこなすリード・ギターが特に凄かった。「Tranen der Sehnsucht」の後半に即興パート的な部分が設けられていたのだが、これが圧巻。ライヴ全体の中でもあれが最大の見所と言っていいぐらいでは。
 「Stolzes Herz」で一旦終了、アンコールでは名曲「Ich bin der Brennende Komet」(ギター二人の掛け合いが美味しすぎた)、さらに新曲からキャッチ−な「I Lost my Star in Krasnodar」(セットリストでは「Senses」となっていたのを差し替えか。驚いた)を挟んで泣きの極み「Ich verlasse heut' Dein Herz」。悲しみを一杯に湛えたティロ様の絶唱に続き、アルバムよりもさらにエモーショナルに爆発的な勢いで溢れるメロディの奔流。歌い終わって早々に退散したティロ様の代わりにステージ中央に向かい合って陣取ったギタリスト二人が、実に満足げな顔でハモりまくっていたのが良かった。
 ここで再びメンバーは退場、二度目のアンコールはティロ様のMCに続き、まさに揺らめく炎のようなメロディが印象的な「Feuer」。これで今日のライヴの演目は全て終了。

 事前に思ったとおり最前列はこの後予定されている握手会を待つまでもなくとっくに握手会状態で、全メンバーと何度も目が合い文字通り触れ合いもできる最高の場所だった。客層のせいか会場の狭さのせいか客が過剰に暴れるようなこともなくて至極快適だったし。新作の曲も、CDだとなんだか地味な印象を受けていたが、ライヴだと躍動感があってずっと良く聞こえた。というかもうそういうのじゃなくてね、12年憧れてきた最高に美しい人物が目の前の至近距離で最高のパフォーマンスを見せてくれる、なんて幸せなんでしょう。死んでもいいよね。
 それにしても今頃こんなタイミングで一体客は入るのか、採算は取れるのかとも事前に危ぶんでいたわけだけれども、実際には予想以上に良さそうな客入りでほっとしました。また来てくれるといいなあ。

 さて、至高のライヴが終わった後はおまけのお楽しみ、握手会。別に最後でいいからと余裕こいて、ドリンクなどもらったり物販を再び覗いたり(なんかさっきより品が増えていて、指輪だの台湾盤?のB面集めたCDだのピックだのが並んでいたので一通り買いました。散財散財)してから皆でゆっくり最後尾に並ぶ。ところが後の方になると、会場で次のイベントが控えてるから時間がないと急かされる。なんてこった。
 それでも片言の英語で緊張しながらもなんとかティロ様と話し(でも必死で喋ったのにティロ様、にこりともせずきょとんとしていた。なんてこった)、書きにくいとかなんとかこぼされながらもTシャツ(どうせ人前では着られない二人の写真のやつ)にサインをもらい、握手をしてもらい、写真も撮ってもらって会場を出てきました。目の汁はなんともなかったけどめちゃくちゃ緊張したぞ!
 その後皆でしばらく出待ちをしていたら、握手会が終わって会場を追い出されたのか早くも出てきたメンバー達。その場で再びプチ握手会のようなものが流れ的に行われていたので慌てて参加させていただこうとしたものの、早々にお二人はタクシーに乗り込んで消えてしまわれました。まあ明らかに通行の邪魔だったし、しょうがないよね。

 最後はせっかくだしということでその辺の居酒屋に適当に入って、飯食って帰ってきました。みんなありがとう。おかげで楽しかったです。
 さて、大阪も頑張ってくるぞ!

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DRAGON GUARDIAN「DRAGONVARIUS」

tawachi2009-06-07

究極のクサメロを追い求めるメロスピの求道者・勇者アーサー(職業:勇者)率いる同人メタル・プロジェクトの、なんとメジャー・デビュー作となる3作目。基本的にはRHAPSODYを嚆矢とする剣と魔法とドラゴンのくっさいRPGメロディック・スピード・メタルの典型(ヴォーカルは女性)なのだが、このDRAGON GUARDIANの場合その臭さが半端ではない。まずメロディそのものからしていかにも日本人的(アニソン的)な臭さを発散しているが、特に臭さを際だたせているのはRPGであればムービーシーンにあたるであろう台詞(というか寸劇)の多用だ。陳腐きわまる言い回しと怪しい文法で長々と展開されるアニメ声の掛け合いは背筋が寒くなるほど恥ずかしく、ちょっと人前では聴けないほどだが、それだからこそハマると抜け出せない異様な魅力を持つ。そんな小道具も駆使しつつ、なりふり構わず臭さとドラマティシズムの追求に徹する姿勢から生み出された濃密な世界観は圧巻の一言で、曲の出来や演奏の良さもあって背筋を寒くしながらもつい何度も聴いてしまう。難を言えばドラムが打ち込みであるためにダイナミズムに欠けるきらいがある点だが、それもゲーム的と考えれば世界観にはマッチしているか。思えば恥ずかしさを物ともせずRPG的メタルを打ち出してきたRHAPSODYの登場はなかなかの衝撃だったが、このDRAGON GUARDIANは、オタク的感性の本場・日本からの「どうせやるならこれぐらい臭くしてみろ」という意図の込もった返歌なのかもしれない。

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1349「REVELATIONS OF THE BLACK FLAME」

tawachi2009-06-03

ノルウェーの誇るブラスト神が一柱、フロスト様を擁するブラック・メタル・バンドの4作目。フロストの超絶ドラミングを前面に押し出した情け容赦ないファスト・ブラックを以前より志してきたバンドであるし、フロストのもう一つのバンドであるSATYRICONがすっかり速さへの志向を捨ててしまっていることもあって、この1349にはブラスト全開のフロスト様を余計に期待してしまうのが人情というものだが、今回のアルバムにはそうした向きにとってはがっかりものかもしれない。なにしろアルバム中半数がSEを多用したよくわからないどろどろした曲で、ブラック・メタルとしての体をなしていない。まともな体裁の曲もスロー〜ミドル・テンポ中心で、速いパートはほとんどなく(2箇所ぐらいか?)、およそアルバムを聴いていて、以前のような爽快感というものは得られない。いわばMAYHEMなら2ndのポジションに位置づけられる作風か(乱暴すぎるが)。だがその分、作品の病気度、全体に込められた粘着質の怨念の量は一番である。前作がその名の通り地獄の業火を表現しているとすれば、今作から感じられるのは地獄の瘴気。腐って膿の垂れた傷口の臭いを嗅がされるような、嫌な湿り気を存分に味わえる。速さを求める人にはそっぽを向かれるだろうが、これはこれで素晴らしい邪悪さを湛えた作品。


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